残業代計算の方法を詳しく解説|残業代計算・割増賃金における注意点4つ
残業代の仕組みとは
「残業代」とは、労働基準法で定められている法定労働時間を超過して働いた際に支払われる割増賃金です。
しかし、企業によっては「みなし労働時間制」などを採用しているケースもあるため、実際の残業代がどのような計算で算出されているのか、分かりにくくなっているケースもあります。
本記事では、残業代の計算方法をはじめ、時間外労働手当や休日手当、深夜手当などの割増賃金における注意点について詳しく紹介していきます。
割増賃金の決まり
法律上の割増賃金は、時間外労働手当と休日手当、深夜手当の3種類です。
時間外労働手当は法定労働時間を超えて仕事をしたときに対象になります。
法定労働時間というのは、通常は1日に8時間または1週間に40時間です。
このどちらか一方でも超えた場合には、25パーセント以上の割増賃金を支払わなければなりません。
休日手当は、法定休日に労働した場合に支払い対象になります。
法定休日というのは、1週間に1日の休日のことで、必ずしも会社の休日と一致するわけではありません。
また、割増率は35パーセント以上と、時間外労働手当よりも高めに設定されています。
深夜手当は、22時から翌朝5時までの労働が対象で、割増率は25パーセント以上です。
遅くまで残業をした場合には、時間外労働手当だけでなく深夜手当の対象になることもあります。
時間外労働手当と重なる部分に関しては、両方適用されて割増率は合計50パーセントです。
割増賃金は、家族手当や通勤手当、住宅手当などは除外した上で、1時間あたりの賃金を基にして1分単位で計算します。
残業・割増賃金の種類4つ
残業には、大きく分けて「法定内残業」と「法定外残業」があり、さらに残業代としては「固定残業代」や「深夜割増賃金」などが発生することもあります。
ここでは残業・割増賃金の種類4つを紹介しますので、どのような種類があるのか参考にしてください。
1:法定内残業
労働基準法では、原則として1日8時間、1週間40時間を法定労働時間と定めています。
そのため、「法定内残業」とは、労働基準法の1日8時間を超えない範囲内で、会社の所定労働時間を超えて働いた分の残業時間を指します。
たとえば、始業が9時、終業が17時の企業で18時まで働いたとすると、9時から17時までが所定労働時間、17時から18時までの1時間が法定内残業となります。
出典:しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編│東京労働局
参照:https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdf
2:法定外残業
「法定外残業」とは、労働基準法で決められた1日8時間を超える残業時間です。
そのため、前述の条件下で朝9時から22時まで働いた場合、17時までが所定労働時間、18時から22時までの4時間が法定外残業となります。
なお、法定外残業に関しては、割増率25%で割増賃金を計算する必要があります。
出典:しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編│東京労働局
参照:https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdf
3:固定残業代(みなし残業)
「固定残業代(みなし残業)」とは、実際の残業時間には関係なく、毎月一定金額を残業代として支給するものです。
固定残業制を採用する場合は、「固定残業代を除いた基本給額」「固定残業代に関する計算方法」「固定残業時間を超えた時間外労働や休日労働、深労働に対して割増賃金を追加で支払う旨」の3つを明示する必要があります。
出典:固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。│厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000184068.pdf
4:深夜割増賃金
「深夜割増賃金」とは、22時から翌日5時までの深夜帯に勤務した場合に支払われる割増賃金のことです。
深夜割増賃金は割増率25%となっているため、前述の条件の会社で24時まで残業を行った場合は、法定外残業の25%の割増に深夜割増の25%が加わるため、50%の割増率となります。
出典:Q.法定労働時間と割増賃金について教えてください。│厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei07.html
残業代計算に必要な要素4つ
実際に残業代計算を行う場合、基本的な計算式は「残業代=1時間あたりの賃金単価×時間外労働時間(残業時間、休日・深夜労働時間)×割増率」となります。
ここでは、残業代計算に必要な要素4つを紹介しますので、参考にしてください。
1:1時間あたりの賃金単価
1時間あたりの賃金単価は、労働契約や就業規則などによる社員の職種や等級、役職などをベースに、それぞれ異なる金額が定められています。
残業代計算では、この社員ごとの1時間あたりの賃金単価が基礎となります。
2:残業時間
残業代計算では、労働基準法で定められている、1日8時間の法定労働時間を超えて働いた残業時間(時間外労働時間)が計算に必要な要素となります。
また、法定内残業時間に関しては会社の就業規則に従って残業手当が計算されます。
出典:割増賃金の基礎となる賃金とは?│厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/040324-5.html
3:休日・深夜労働時間
法定休日に出勤して仕事を行った休日出勤や、22時から翌朝5時までの深夜時間帯での深夜労働が発生した場合には、それぞれ休日労働分と深夜労働分の残業代計算を行う必要があります。
出典:割増賃金の基礎となる賃金とは?│厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/040324-5.html
4:割増率
残業代計算を行う際の割増率は、時間外労働、休日労働、深夜労働それぞれで異なります。
時間外労働の場合は25%以上、休日労働は35%以上、深夜労働は25%以上となります。
出典:割増賃金の基礎となる賃金とは?│厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/040324-5.html
残業代・割増賃金の計算式
残業代計算を行う場合、「1時間あたりの賃金単価×時間外労働時間×割増率」という計算式に基づいて計算します。
たとえば、1時間あたりの賃金単価が1,500円、残業10時間、休日労働8時間、深夜労働4時間を行った場合の残業代計算は、「1,500円×(10時間×1.25+8時間×1.35+4時間×1.25)」となります。
出典:割増賃金の基礎となる賃金とは?│厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/040324-5.html
割増賃金の計算例
具体的な計算例についてみていきましょう。
例えば、所定労働時間が9時から17時までで、休憩時間を除いて7時間と仮定します。
給料は基本給が18万円で職能給が3万円、年間休日数は115日です。
その上で深夜0時まで残業していたとしましょう。
1時間あたりの賃金は以下のようにして計算できます。
まず1ヶ月の平均所定労働時間を算出します。
(365日-115日)×7時間÷12ヶ月=146時間
次に基本給と職能給の合計を1ヶ月の所定労働時間で割ります。
21万円÷146時間=1,438円
そうすると1時間あたりの賃金が1,438円と算出できるので、これを当てはめてみましょう。
17時から18時までの1時間に関しては、法定労働時間を超えないため割増賃金はなく、時間が増えた分の賃金のみで、1,438円です。
18時から22時までの4時間に関しては時間外労働手当の対象になり、25パーセント以上の割増賃金が支払われます。
1,438円×4時間×1.25=7,190円
22時から0時までの2時間に関しては深夜手当も加わるので、時間外労働手当と合わせて50パーセントの割増賃金です。
1,438円×2時間×1.5=4,314円
その1日の残業だけで、12,942円も給料が増えるということになります。
これが1ヶ月に10日あったとすれば、残業代だけで129,420円にもなるのです。
勤務体系の違いによる残業代計算の方法6つ
ここまで、一般的な勤務体系による残業代計算の方法について紹介しましたが、フレックスタイム制や裁量労働制など、勤務体系の違いによって残業代計算の計算方法は異なります。
続いて、勤務体系の違いによる残業代計算の方法6つを紹介しますので、どのような違いがあるかを見て行きましょう。
1:フレックスタイム制
「フレックスタイム制」とは、社員が自分の好きなように始業時間や終業時間を決められる制度です。
フレックスタイム制の場合、1ヵ月以内の清算期間内で労働すべき総労働時間を、平均1週間40時間以内に収める必要があります。
そのため、1日8時間、1週間40時間という労働基準法で定められた法定労働時間を超えると残業代が発生するというわけではなく、総労働時間を超えた場合に残業代が発生する仕組みになっています。
出典:フレックスタイム制とは│厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/flextime/index.htm
2:管理職
管理職の場合、時間外手当や休日手当の支払い対象に該当しません。
ただし、役職が付いていても実働が伴わない、いわゆる「名ばかり管理職」の場合は、管理職とは見なされないため、残業代を支払う必要があります。
なお、残業代支払いの対象外になる管理職とは、企業の経営に参画している人や、十分な権限を持ち、役職手当をもらっている人を指します。
そのため、名ばかり管理職の場合は、通常と同様の残業代の支払いが必要です。
出典:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために│厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/dl/kanri.pdf
3:裁量労働制
「裁量労働制」とは、会社側で正確な労働時間を把握するのが難しい営業職などに採用されている制度です。
裁量労働制では、みなし労働時間を8時間以下にした場合、残業代は発生しません。
しかし、みなし労働時間を8時間以上に設定した場合は、実労働時間が8時間を超える分に残業代が発生します。
出典:専門業務型裁量労働制の適正な導入のために│厚生労働省
参照:https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501876.pdf
4:日給制
「日給制」の場合、残業代計算に必要な1時間あたりの賃金単価がありません。
そのため、まずは日給を1日の所定労働時間で割り、算出された1時間あたりの賃金単価に残業時間と割増賃金を掛けることで、残業代計算を行います。
出典:最低賃金額以上かどうかを確認する方法│厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/minimum/minimum-13.htm
5:年俸制
「年俸」として1年間の給与が決まっている「年俸制」でも、法定労働時間を超える場合は残業代を支払う必要があります。
年俸制での残業代計算では、まずは年棒額を12で割り、月額賃金を算出してから1ヵ月の所定労働時間で割って、1時間あたりの賃金単価を算出します。
さらに、1時間あたりの賃金単価に残業時間と割増率を掛けることで残業代を算出します。
出典:しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編│東京労働局
参照:https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdf
6:変形労働時間制
「変形労働時間制」とは、年単位や月単位で労働時間を調整できる制度です。
例えば、繁忙期では労働時間が1日8時間を大きく超えるケースでも、閑散期の労働時間を短くすることで、繁忙期の時間外労働を時間外労働として扱わなくても良くなります。
また、変形労働時間制を採用していても、1週間の所定労働時間が40時間を超えている場合や、40時間未満であれば法定労働時間を超えた時間は時間外労働となります。
出典:労働時間制│厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-2.pdf
残業代計算・割増賃金における注意点4つ
残業代計算の方法は労働基準法で定められているため、企業の独自ルールによって残業代計算を行っている場合、知らず知らずの間に法律違反を行ってしまっている可能性があります。
最後に、残業代計算・割増賃金における注意点4つを紹介しますので、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
1:残業代計算は分単位が原則
労働基準法では、働いた時間分の正確な報酬支払いが義務付けられているため、残業時間は1分単位で計算することが原則となっています。
ただし、全社員の残業時間を1分単位で計算することは非常に大変な作業になるため、1ヶ月分の残業時間をまとめて30分単位で四捨五入することは可能です。
出典:しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編│東京労働局
参照:https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdf
2:未払い残業は労基法違反
残業代が正確に計算されておらず、支払っていない残業代がある場合は「未払い残業」となり、労働基準法違反となります。
未払い残業があった場合、法律に違反した者に対して6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられます。
また、会社そのものが刑罰の対象になるケースもあります。
出典:労働基準法第119条│厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/seisaku05/pdf/seisaku05l-02.pdf
3:無断で残業するのは厳禁
労働基準法における労働時間は、社員が会社の指揮命令下におかれる時間とされているため、社員が独断で会社に残って残業をしている時間は労働時間には含まれません。
そもそも、社員自身の判断で残業する権利は存在しません。
その点が曖昧になってしまうのを防ぐためにも、就業規則に会社の残業命令なしに残業を行わないようにする旨を記載しましょう。
4:残業代計算に含まれない手当がある
残業代計算では、労働と直接の関連が薄い賃金に関しては割増賃金から除外されています。
具体的に、「家族手当」「通勤手当」「住宅手当」「別居手当」「子女教育手当」「臨時に支払われた賃金」「1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」の8つに関しては、残業代計算に含まれません。
出典:割増賃金の基礎となる賃金は?│厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-5a.pdf
残業代計算や割増賃金に関する知識を得ておこう
残業代計算は、労働基準法で計算方法が定められているため、法律に則って正しく支給する必要があります。
ぜひ、本記事で紹介した残業代の仕組みや残業代計算に必要な要素、残業代計算・割増賃金における注意点などを参考に、残業代の未払いなどが発生しないよう、正しい残業代計算や割増賃金の知識を身につけましょう。
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